Share

8-6 ショットバーにて 2

last update Huling Na-update: 2025-05-30 17:26:51

「それじゃ……あと4年で2人の契約婚は終了するってことなんだね?」

修也はギムレットを飲み干すと尋ねた。

「ああ、そうだ」

「それで? その後はどうするの?」

「……」

修也の質問に翔は答えることが出来ない。

「朱莉さんて人に、もし契約婚を続ける意思がないなら僕は解放してあげるべきだと思うよ?」

遠慮がちに修也は言った。

「だが……」

翔は言葉を切ると、苦し気に顔を歪めた。それを見ると修也は慌てた。

「ご、ごめんっ! 翔! また僕は出過ぎたことを言ってしまって…。さっきの話は忘れて。やっぱりこれは翔と朱莉さんの問題だからね」

「修也……」

(お前だったらこんな真似は絶対にしないだろうな。お前は俺と違って誠実な男だから……)

翔は修也に嫉妬していた。子供の頃から修也は何でもそつなく、いとも簡単にこなしていた。一方の翔は誰にも見られないように影で努力を重ねていたが、結局何をやっても修也には適わなかった。

勉強もスポーツも……だから翔は高校時代、たいして興味も無い音楽に手を出した。

柄にもなく吹奏楽部に入り、ホルンの楽器を演奏することにした。恐らく、これならさすがの修也にも真似は出来ないだろうと思っていたのだが……結局この楽器すら、修也は少し練習しただけで演奏出来るようになっていた。まさに真の天才と言える存在だと翔は考えている。

だから翔は修也の陰に怯えていた。

そんなある日、高校時代に修也が翔に成りすましていた時に、ちょっとした事件が起こり、修也はその件に関して深く係わりを持ってしまった。

その時に翔は修也に対し、激しく激怒した。何故余計な真似をしたと修也にくってかかったが……優しい修也には見過ごすことが出来なかったのだろう。

あの時、何故自分があれ程までに修也に対して激怒してしまったのか……今なら分かる。鳴海翔という人間が修也に乗っ取られてしまうのではないかと恐怖を抱いたから修也を叱責したのだ。

そしてそれがきっかけで、翔は修也に背を向け、修也もまた翔から逃げるように地方の大学へと進学したのだった。

 修也は神妙な顔つきで黙ってカクテルを飲んでいたが、やがて空になったグラスをテーブルの上に置くと翔を見た。

「翔……確か朱莉さんて女性は高校時代、翔と同じ高校に通っていたんだよね?」

「ああ、そうだ。でも1年の夏休み前に退学している」

「1年の夏休み前に……退学……?」
Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App
Locked Chapter

Pinakabagong kabanata

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   8-14 結婚式 4

    「折角のおめでたい席なのにお騒がせして申し訳ございませんでした」「「「「「……」」」」」5人の男性達は少しの間、黙って修也を見つめていたが、やがて1人が言った。「い、いえ。こちらも盗み聞きするような真似をしてすみませんでした」それを見た他の4人の人物たちもそれぞれ謝罪の言葉を口にした。すると今度は琢磨が頭を下げてきた。「こちらこそ申し訳ございませんでした。失礼な態度を取ってしまってお詫びいたします」琢磨が頭を下げたのを見た翔も流石に黙っていられなくなった。(修也も琢磨も謝罪したって言うのに俺だけ言わないのは大人げないな……)「お騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした」翔が謝ったのを皮切りに徐々にテーブルは和やかなムードになり、気が付けば彼等はビジネスの話に興じ始めていた。しかし、朱莉は彼等の話に全く付いていくことが出来なかったので蓮のおむつ替えのついでに席を立った。披露宴会場のスタッフにおむつ替えコーナーを尋ね、そこで蓮のオムツを交換して会場へ戻ろうとした時、廊下で話声が聞こえてきた。「……ごめん。翔」(え?)それは修也の声だった。慌てて蓮を抱きしめたままそっと様子を伺うと、まるで柱の陰に隠れるような形で翔と修也が立ち話をしていた。「あれ程朱莉さんには必要以上接近するなと言ってあっただろう? 覚えてなかったのか?」翔は朱莉から背を向けるような形で立っている。「勿論、覚えているよ。でも席が隣同士だったから挨拶位はしないといけないだろう?」「だが、お前は朱莉さんをずっと見つめていたじゃないか?」「別に見つめていたわけじゃないよ」「……お前。ひょとして……」翔が言いかけた時、披露宴会場からアナウンスが聞こえてきた。『そろそろ新郎新婦の御入場です。皆様、お席に戻ってお待ちください』「翔、始まるよ」「ああ、戻るか」修也に促され、翔は足早に会場へと戻って行った。そしてその後を修也が追う。「あ、私も戻らなくちゃ!」朱莉も慌てて蓮を胸に抱きかかえ、会場へと戻って行った――**** その後の披露宴はそれは素晴らしいものだった。お色直しで現れた姫宮のカラードレスは見事なものだった。ベアトップに床に広がるプリンセスラインのブルーのドレスはまるで銀河系をイメージしたかのようなドレスだった。胸もとからウェスト部分までは星屑が散り

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   8-13 結婚式 3

    「とっても可愛いお子さんですよね? 今1歳くらいですか?」修也は優し気な瞳で蓮を見つめながら訊ねてきた。「い、いえ……この子……レンちゃんは今8カ月になったところです」「ああ、そうだったんですね、すみません。赤ちゃんの年齢、僕にはぱっと見ただけでは分からなくて」修也は恥ずかしそうに笑う。「そうなんですか?」(と言うことはこの人は独身なんだ……。結婚を約束した女性はいるのかな……?)「すみませんでした。副社長の秘書になったのに、ご挨拶が遅れてしまって」頭を下げる修也を見て朱莉は尋ねた。「あ、あの……各務……さんでしたっけ? もしかして翔さんの御親戚か何かでしょうか?」「ええ、そうです。僕は副社長のいとこにあたるんです」「やっぱりそうだったんですね。どうりで翔さんに良く似てらっしゃると思いました」「そうですね。僕の父と副社長のお父様は双子の兄弟なんですよ。似てるのは当然かもしれませんね」「そうだったんですか!? 翔さんは一度もそんな話してくれたことが無かったので」朱莉は離乳食を食べ終えた蓮の口元をガーゼハンカチで拭きとってあげながら修也を見た。「……」すると、何故か修也はじっと朱莉を見つめている。「あ、あの……? どうかしましたか……?」朱莉はあまりにも修也が自分を見つめているので、顔を赤らめながら尋ねた。「いえ、とても愛情深くお子さんを育てているんだなって思って」「そ、そんなこと……ありません……」朱莉はますます頬を赤らめた。心臓はさっきよりもドキドキしている。(私ったら一体どうしちゃったんだろう。この人は翔さんとすごく良く似ているのに……どうしてこんなにドキドキしてしまうんだろう……)気付けば、朱莉は修也と見つめ合っていた。そして、そんな様子にいち早く気付いたのは翔であった。「修也!」突如、翔が名前を呼んだ。「え? な、何?」修也は驚いたように翔を見た。「あまり……人の妻をジロジロ見るのはやめてくれないか?」語気を強めて翔は修也を睨み付けた。「あ、ご、ごめん。翔。そんなつもりは無かったんだけど」修也はうろたえて謝る。「翔さん。何もそんな言い方をしなくても……」普段なら黙っている朱莉は何故か修也が責められるのが嫌で、つい口を挟んでしまった。「朱莉さんは黙っていてくれ」翔は朱莉を見もせずに答えた。

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   8-12 結婚式 2

    「え? え?」朱莉は驚き、キョロキョロしながら周囲を見渡した。すると壇上に立っていた姫宮と朱莉の視線が合った。姫宮はニコリと笑みを浮かべてこちらを見ている。「静香さん……」(まさか私にわざとブーケを……?)戸惑う朱莉を姫宮はじっと見つめると、心の中で語り掛けた。(朱莉さん。今度は貴女が幸せになる番よ) ブーケトスのイベントの後。二階堂夫妻は披露宴のお色直しの為に、チャペル会場を音楽に合わせて、最大な拍手に包まれながらゆっくりと退場して行った。「朱莉さん。俺達も次の会場へ移動しようか?」「ええ。そうですね」翔は近くに琢磨や修也の姿が無いか見渡したが、幸い大勢の来賓客達で会場内はごった返し、2人の姿を見つけることは無かった。「良かった……」翔は安堵の溜息を洩らした。「え? 何が良かったのですか?」「いや。何でもない。それじゃ、行こうか?」「はい」朱莉は翔に促され、2人で次の披露宴会場へと移動した——**** 披露宴会場にて——(くそ! 先輩め……一生このことは恨んでやるからな!)翔は自分と同じテーブルに座るメンバーを見て、二階堂を心底恨みたくなってしまった。(何で、何でよりにもよってこの2人と同じテーブルなんだよ!?)丸テーブルには翔の右隣に朱莉、そして朱莉の隣には修也が座っている。翔の左隣には気まずい雰囲気の琢磨が座り、残り5人のメンバーは二階堂の会社関係の人物達で、いずれも翔達とさほど年齢に差が無い。先に口を開いたのは琢磨の方だった。「翔……元気そうだな」「……まあな。そういう琢磨も元気そうだ」「ああ、お陰様でな。夏はあまり暑くないのはいいが、冬の寒さは身に染みて堪える。まだオハイオに行って半年しか経過していないが……こうして久しぶりに日本へ戻って来ると、もう出国する気が失せそうだ。それとも誰か一緒について来てくれればまたオハイオに戻ってもいいと思えるんだけどな」不敵な笑みを浮かべる琢磨。「あ、ああ。そうか……」翔は曖昧に返事をした。しかし、今の琢磨にとっては翔との会話等どうだって良かった。今琢磨の頭を占めているのは朱莉の隣に座っている修也のことだけであった。(あいつが新しい翔の秘書なのか? しかし、一体どういうことなんだ? 何故あの男と翔がよく似ているんだ!)初めてテーブル席に着いた時、琢磨は修也

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   8-11 結婚式 1

     6月某日 大安吉日 午前11時——都内の一流ホテルで二階堂と姫宮の結婚式が厳かに行われている。「素敵ですねえ。姫宮さん……じゃなかった、静香さんのウェディングドレス姿」フォーマルドレスに身を包み、蓮を抱っこしながら朱莉がうっとりした目つきで見つめていた。今、二階堂夫妻はホテルの中にあるチャペルで指輪の交換をしている。目をキラキラさせながら2人の様子を見つめる朱莉の横顔を見ながら翔は思った。(やはり朱莉さんもウェディングドレスと結婚式に憧れているのだろうな。でも女性なら当然のことか)翔は自分たちの席よりも後ろに座っている琢磨、そしてまた別の席に座っている修也を見ながら思った。(あの2人もいずれ誰かと結婚をするんだろうな。だが、俺は一体どうだ? 明日香とは曖昧な関係、朱莉さんとは中途半端な結婚。こんなことになるなら契約結婚なんか考えずに最初から朱莉さんを正式な妻にしていれば本当の家族になっていたのに)だが、翔にはその言葉を口にする勇気が持てなかった。契約婚をやめて本当の夫婦になろうと言った段階で朱莉との関係が破たんしてしまうのではないかという恐怖があった。そして何故か言い知れぬ嫌な予感がしていた。(何だろう。今日はどうしようもなく嫌な胸騒ぎがする。もしかして琢磨と修也がいるからか……? せめて披露宴は席が離れていてくれればいいな)翔は披露宴が始まる今から席次表のことを考えるだけで胃がズキズキと痛くなるのを感じていた——やがて、式が終わりブーケトスの時間がやってきた。「はーい! 独身女性の皆さん! これから花嫁がブーケを投げます! 誰が受け取れるでしょうか……それでは花嫁さん、よろしくお願いします!」「誰が受け取るんでしょうね」朱莉は興味津々に我こそはブーケをと狙っている女性達から離れて、翔と一緒にその様子を見つめている。「そ、そうだね」翔は蓮を抱いてあやしながら曖昧に返事をした。本来なら朱莉だって独身のようなものだ。なのに自分と言う偽装の夫がいる為にブーケトスに参加することが出来ない。それがとても申し訳なく感じてしまった。「すまない、朱莉さん」翔は小声で朱莉に謝罪した。「え? 何を謝るのですか?」朱莉は訳が分からないとでも言わんばかりに首を傾げた。「あ、いや。何でもないよ」その時再び司会者の声がした。「さあ、花嫁がブー

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   8-10 朱莉の願い 2

    「あの……そう言えば、九条さんと翔さんは……そ、その仲直り……出来たんでしょうか?」「え? な、何故朱莉さんがそのことを?」「……」しかし、朱莉はそれに答えずに膝の上で両手をギュッと握りしめた。「あの、九条さん。お願いがあります」「お願い?」「どうか翔さんと仲直りしていただけないでしょうか? お二人はずっと仲の良いお友達だったのですよね? 私は高校を中退した後はずっと働きづめで仲の良い友達っていないんです。ずっと翔さんと九条さんが羨ましいと思っていました。だからこそ、お二人には仲良くしていただきたいんです。幸い、明日は二階堂社長と姫宮さんの結婚式と言うおめでたい席なので……」「朱莉さん……」(それは朱莉さんの頼みなら聞いてやりたいけど……)思わず黙ってしまうと、朱莉が続けた。「翔さんはとても変わったんですよ? 私にもとても親切にしてくれて。この間は私は何も用意していなかったのに、結婚記念日だからと言って腕時計をプレゼントしてくれたんです。でも……」朱莉は少し悲し気に俯いた。「どうしたんだ? 朱莉さん」「翔さんがくれた腕時計、純金製で……私、金属アレルギーで折角プレゼントしてくれた腕時計、はめることが出来ないんです」「そう言えば、朱莉さんは金属アレルギーだったな。前に俺に話してくれたっけ」「はい、プレゼント……すごく嬉しかったんですけど、金属製だったので。やっぱり翔さんは私のこと全く覚えていなかったんだなって改めて思いました」「……」琢磨は朱莉の話を神妙な顔で聞いていた。(まさか本当に翔は忘れているのか? 考えにくい話だが……朱莉さんはそれとも別の誰かと勘違いしているんじゃ……?)「九条さん? どうかしましたか?」「あ、いや……何でもない。あ、そろそろホテルが見えてきた」琢磨は左斜め前方に見える巨大なホテルを見つめた。「あ。あのホテルは都内でも三ツ星に当たるホテルじゃないですか。相変わらず九条さんはスケールが大きいですねえ……」「まあな、これでも一応社長だから。と言っても雇われだけどね」そして琢磨はウインカーを左に点灯させると、そのままホテルの敷地内へ進入していった。そして正面入り口に車を停める。「朱莉さん。それじゃ俺のホテルはここだから。車返すよ。今日は迎えに来てくれてありがとう。とても嬉しかった」「はい、私も久

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   8-9 朱莉の願い 1

     ハンドルを握りながら琢磨は朱莉に尋ねた。「朱莉さん、もう以前の億ションは引っ越ししたんだって?」「はい、そうです。まあ……色々ありましたから」朱莉は琢磨をチラリとみる。「例えば京極のこととか?」「ええ、そうですね。初めは京極さんがあの億ションに隠しカメラを仕掛けていたのが原因で引っ越しを考えたんですけど、明日香さんも出て行ってしまいましたし……」「知ってるよ。その話は。今、明日香ちゃんは『ホテル・ハイネスト』の総支配人と同棲しているんだろう?」「え? 九条さん。どうしてその話を知ってるんですか?」朱莉は驚いて琢磨の顔を見た。「ああ、航から聞いたんだ。どうも航は京極から詳しい話を聞かされないまま『ホテル・ハイネスト』の総支配人について調べてきてくれって言われたらしい」「京極さんが……」朱莉は京極があちこちの人間の身元調査に手を広げているかを改めて知り、今更ながら京極と言う人間が怖くなった。だが、その京極ももはや日本にはいない。姫宮の話だとオーストラリアへ移住したらしい。「京極さんは……もう日本へ戻ってはこないつもりなのでしょうか」朱莉はポツリと呟いた。「さあ……どうかな? あの男のことだ。またふらりと日本へ戻って来るかもしれないぞ?」「そうですね。でも明日は姫宮さんの結婚式なのにお兄さんとして出席されないなんて姫宮さんが何だかかわいそうです。たった一人きりのお兄さんなのに……」それを聞いて琢磨は笑みを浮かべた。「やっぱり朱莉さんは優しいんだな。あんな男にも同情して。あれ程怖い目に遭わされてきたのに」「確かにそうかもしれませんが、最初は本当に親切な人だったんですよ? 私が最初に飼っていた犬のマロンを引き取ってくれたし……」「そう言えば、ネイビーはどうしてる?」「はい、ネイビーも元気ですよ。レンちゃんがもうすこし大きくなったら一緒に遊べるといいんですけど」朱莉は後部座席に置かれたチャイルドシートでスヤスヤと眠っている蓮を見た。「朱莉さんは明日の二階堂社長と姫宮さんの結婚式に参加するんだろう?」「はい、そうです。今から楽しみです。姫宮さんはとても綺麗な女性だからウェディングドレス姿きっとお似合いだろうな……」朱莉はうっとりする。「朱莉さん……」(朱莉さんも綺麗だから、ウェディングドレス姿似合うだろうな。出来ればその隣に

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status